第1章 数と演算
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大学では基礎にこだわって、数学の体系を再構築することから始める
そうしないと高度で強力な数学を築くことができない
1.1. 等号
=
2つものごと$ a, bが互いに等しいとき
$ a = b \qquad (1.1)
以下の3つ全てが常に成り立つ
$ aが何であっても, a = aである \qquad (1.2)
$ a = bのとき, b = aである \qquad (1.3)
$ a=b かつ b=cのとき,a=cである \qquad (1.4)
公理とは学問における論理の前提であり、出発点であり、「それらは無条件に成り立つ」と合意するもの
言い換えれば、これらは等号の定義、つまり「等しいという関係」の定義の一部
(1.2)~(1.4)を満たさない限り、数学ではそれを「等しい」とは言わない
問1
$ A君は学生である \qquad (1.5)
ということを
$ A君 = 学生 \qquad (1.6)
と書いてしまう人がいる。すると、式(1.3)より、
$ 学生=A君 \qquad (1.7)
となってしまう。さらにB君も学生であれば、
$ B君=学生 \qquad (1.8)
$ 学生=B君 \qquad (1.9)
となり、式(1.4)を式(1.6)と(1.9)に適用すれば
$ A君=B君 \qquad (1.10)
となってしまう
1.2 自然数・整数・有理数・実数
数とは何か
「この世に1という数が存在する」ということを、無条件に受け入れる
「1を繰り返し足すことによって、新たな数を作ることができる」と約束する
例1.1
$ 2とは$ 1+1のことである(定義)
$ 1+1=2という式は、計算の結果ではなく、$ 2という数の定義
以後、「左辺を右辺によって定義する」ような等式には普通の等号=ではなく:=という等号を使う
$ 2:=1+1 \qquad (1.11)
$ 0は自然数でない
$ 1を何回足しても$ 0にはならない
ただし、$ 0は自然数である、という主義の数学者もいる
どちらも正しい
どういう「定義」を採用するにせよ、首尾一貫してつじつまが合えばよい
次に、自然数どうしの足し算というものを考える
「$ 1を繰り返し足すこと」に立ち返って定義する
たとえば$ 2+3=(1+1)+(1+1+1)=1+1+1+1+1
次に、自然数どうしの掛け算というものを考える
たとえば$ 2を$ 3回足すことを、「2に3を掛ける」と呼び、$ 2\times3と書く
一般に、$ a, bを任意の自然数として、「$ aに$ bを掛ける」とは「$ aを$ b回足すこと」と定義する
次に、引き算を定義する
数$ a,bについて
$ a=b+xを満たすような数xを求めること \qquad (1.12)
を「$ aから$ bを引く」と呼び、$ a-bと書く
自然数から自然数を引くと、自然数になることもならないこともある
自然数から自然数を引いてできる数(必ずしも自然数ではない)を考える
たとえば$ 2は自然数だが、$ 3という自然数から$ 1という自然数を引いてもできるので、整数でもある
同様に考えれば、どんな自然数も整数
つまり、自然数は整数でもある
$ 0は整数である
$ 1-2, $ 1-3などを考えれば、$ -1, -2, \cdotsなども整数
すなわち整数は
$ \cdots, -3, -2, -1, 0, 1, 2, 3, \cdots
などの数
次に割り算を定義する
数$ a, bについて、
$ a=b \times xを満たすような数xを求めること \qquad (1.13)
を「$ aを$ bで割る」と呼び、$ a \div bとか$ \frac{a}{b}とか$ a/bと書く
ただし、「$ 0で割る」ことはできないと約束する
整数を整数($ 0以外)で割ると、整数になれば、ならないこともある
たとえば$ 6 \div 3は整数だが、$ 5\div4は整数にはならない
そこで整数を整数($ 0以外)で割ってできる数を考える
すなわち、2つの整数$ n,m(ただし$ m \neq 0とする)によって
$ \frac{n}{m} \qquad (1.14)
と表される数
ここで、任意の整数$ nは、$ n/1と表すことができるので有理数でもある
つまり、整数は有理数でもある
問2 自然数・整数・有理数を、それぞれ定義せよ
ところで、円の周長を直系で割って得られる数を円周率という(定義) $ \piという記号で表す
$ \piは$ 3.141592\cdotsという無限に続く小数になるが、これはどんな整数$ n,mをもってしても、$ n/mというふうには表現できない
同様に$ \sqrt{2}つまり「2乗したら2になるような正の数」は、$ 1.41421356\cdotsという無限に続く小数になるが、これも、どんな整数$ n, mをもってしても、$ n/mというふうには表現できない
実はこの定義はかなり不完全である。無理数や実数の完全な定義は、かなり難しい
1.3 定義について
定義とは、言葉の意味を規定すること
定義は、すでに定義されている言葉だけで記述しなければダメ
たとえば「自然数とは$ 1以上の整数である」はダメ
整数は自然数が定義された後に、自然数を使って定義されるもの
次に、定義は、そのことばの指し示す対象を、過不足なく特定できなければダメ
たとえば「自然数とは, $ 1, 2, 3等のことである」というのは$ 4以上の自然数についてきちんと述べていないからダメ
「自然数とは、ある種の整数である」は$ -1や$ -3が自然数なのかどうかわからないからだめ
また、定義は、必要最低限のことだけが入っていなければダメ
たとえば「$ \sqrt{2}とは、2乗したら$ 2になるような正の無理数」というのはダメ
「無理数」が蛇足
「2乗したら2になるような正の数」という条件だけで$ \sqrt{2}は決まる
定義から論理的に導かれる事柄
「$ \sqrt{2}は無理数」というのは定義ではなく定理
問3円周率とは?という問に、A君は$ 3.14と答えた。それを聞いたB君は「それは違う。$ 3.1415926、以下、ずっと値が続く数だよ」と言った。B君の発言はA君の答より少しはましだが、正解とは言えない。なぜか?
よくある質問1 定義と公理の違いがわかりません
ほぼ同じ
強いて言えば公理の方が大げさな感じ
ひとつの事柄の定義はひとつは限らず、場合によっては、複数ありえる
円周率$ \pi
「円周の長さをその円の直径で割ったもの」と定義するのが普通
「奇数の逆数に、正負交互に符号をつけて無限に足し合わせ、最後に4倍したもの」とも定義できる
$ \pi = 4\times(\frac{1}{1} - \frac{1}{3} + \frac{1}{5} - \frac{1}{7} + \cdots) \qquad (1.15)
これを$ \piと定義すれば、それが「円周の長さをその円の直系で割ったもの」に等しいということが数学的に証明でき、そのことは定理となる
よくある質問2 定義が複数あるのなら、どれを覚えればいいのですか?
まず、今学んでいる教科書の定義を覚える
そのうち他の定義もあり得ることがわかってくる
科学的な文章を書く時は、「記号の定義」が重要
たとえば「円の面積の公式は?」と聞かれたら「$ \pi r^2です」と答えるのは不十分
$ \piは数学のルールとしてOKだが、$ rという記号が何かは、数学の中ではルールとして決まってはいないので、「半径を$ rとする」という記号の定義を述べねばダメ
数学のルールで定められた記号以外の記号は、使う前にかならず定義しなければならない
1.4 無限大
「何かを$ 0で割ることはできない」と述べたが、$ 0に近い数で割ることはできる
たとえば$ 1を$ 0.0001で割ると、$ 1/0.0001 = 10000
あるいは$ 1を$ -0.0001で割ると、$ -10000
このように$ 0に近い数で、$ 0でない何かを割ると、その結果は非常に大きな数になったり非常に小さな数(マイナスの大きな数)になる
「割る数」を$ 0に近づければ近づけるほど、その傾向は際限なく激しくなる
際限なく小さな数(マイナスの大きな数)になる様子を、「負の無限大」と呼び、$ -\inftyという記号で表す そういうふうに考えれば
$ 1 \div 0 = \infty \ または, 1 \div 0 = -\infty \qquad (1.16)
といえなくもなさそうだが、これはダメ
$ \inftyは「数」ではない
あくまでも「$ 0での割り算はできない」という立場を貫こう
よくある質問3 証明せよ, と言われても, 何を既知としてよいかわかりません
定義と公理、そして自分がすでに証明したこと(定理)は、既知として構わない
なお「示せ」と「証明せよ」は同じこと
1.5 四則演算
任意の実数$ a, b, cについて、以下のようなルールが成り立つのは中学校までの経験から自明だろう
$ a+b=b+a \qquad (1.17)
$ (a+b)+c=a+(b+c) \qquad (1.18)
$ a+0=a \qquad (1.19)
$ aに足して0になる数, つまり, a+(-a)=0となる数「-a」がある \qquad (1.20)
$ a \times b = b \times a \qquad (1.21)
$ (a \times b) \times c = a \times (b \times c) \qquad (1.22)
$ a \times 1 = a \qquad (1.23)
$ a \neq 0ならば, aに掛けて1になる数, つまり, a \times (1/a)=1となる数「1/a」がある \qquad (1.24)
$ a \times (b+c) = a \times b + a \times c \qquad (1.25)
$ 0 \neq 1 \qquad (1.26)
計算の順序を逆にしても結果がわからないという性質
同種の計算が複数ある場合にどこから手をつけても結果が変わらない、という性質
式(1.18)は和の結合法則、式(1.22)は積の結合法則が成り立つことを言っている 式(1.25)
振り返ってみると、そもそも掛け算は「自然数を自然数回、足すこと」と定義した
つまり、自然数$ a, bについて、「$ aを$ b回足すこと」を$ a\times bと定義した
その定義では、$ 2.3 \times 1.8のような小数どうしの掛け算や、$ (-3)\times(-5)のような、負の数どうしの掛け算などできない
そこで、掛け算を含めた四則演算を、自然数や整数だけでなく実数にまで拡張して適用できるように定義し直さねばならない
それをやってくれるのが式(1.17)~式(1.26)
当たり前すぎてどうでもいいことのように思うかもしれないが、数学の体系ではそうではない
むしろ式(1.17)~式(1.26)を満たす演算を, 四則演算と呼ぶ
つまり、四則演算の公理(定義)
そして「自然数だけでなく, どんな数に対しても式(1.17)~式(1.26)は成り立たねばならない」と要求する
そうすると例えば、以下のようなことが必然的に導かれていく
例1.2 任意の実数$ xについて、$ x \times 0 = 0であるのはなぜだろう?
まず式(1.19)より、$ a + 0 = a
この両辺に$ xをかけると、$ x \times (a + 0) = x \times a
これに式(1.25)を適用すると、$ x \times a + x \times 0 = x \times a
この両辺から$ x \times aをひくと$ x \times 0 = 0
例1.3 マイナスとマイナスをかけたらなぜプラスになるのだろうか?
たとえば$ -1 \times -3はなぜ$ 3になるのか
まず、$ (-1) \times (-3+3)を考える。式(1.25)より、
$ (-1) \times (-3+3)=(-1)\times(-3)+(-1)\times3 \qquad (1.27)
ところが、$ -3+3=0であることを使うと
$ (-1)\times(-3+3)=(-1)\times0=0 \qquad (1.28)
でもある。式(1.27)と(1.28)を使うと、
$ (-1)\times(-3)+(-1)\times3=0\qquad(1.29)
この両辺に$ 3を足すと$ (-1)\times(-3)+(-1)\times3+3=3となる
ところが、式(1.25)より$ (-1)\times3+3=(-1+1)\times3=0\times3=0なので
$ (-1)\times(-3)=3\qquad(1.30)
となる
上の例では、わかりやすくするために具体的な数で示したが、任意の実数についても「マイナスかけるマイナスはプラス」が成り立つことを容易に示せる
このように「マイナスかけるマイナスはプラス」は四則演算の公理から必然的に導出される
このように整数や実数まで含めた四則演算の性質は、全て式(1.17)~(1.26)から導き出せる
よかる質問4 マイナス×マイナスがプラスになる理由はイメージできないしピンとこない
式(1.17)~式(1.26)は全部当たり前で納得できること
その「当たり前のこと」から出発して導かれた結論である「マイナスかけるマイナスがプラス」も当たり前ということになる
大学数学は、直感やイメージですぐには納得できないことがたくさんあるが、それらも公理や定義から始まる論理で理解し、納得する
問4 四則演算の公理を書け
ところで、上野「四則演算の公理」んは、引き算や割り算は出てこないが、ちゃんと含んでいる
引き算は足し算、割り算は掛け算で、それぞれ書き換えることができる
つまり、実数$ a,bに対して$ a-bは$ a+(-b)と書き換えられるし、$ a\div bは($ b \neq 0なら)$ a \times (1/b)と書き換えられる
それは式(1.20)によって$ -bのそんざいが保証され、式(1.24)によって$ 1/bの存在が($ b\neq0であれば)保証されるから
例1.4. 実数$ a,bについて、以下を証明する
$ ab=0ならば,a=0またはb=0\qquad(1.31)
まず、$ ab=0が成り立つとする
もし$ a \neq 0なら、式(1.24)より、$ 1/aが存在する
それを$ ab=0の両辺に掛けると、$ b=0
したがって、$ a \neq 0かつ$ b \neq 0となるようなケースは存在しない
したがって、$ a,bのうち少なくとも片方は必ず$ 0である
単純な四則演算であっても、現実的な問題と関連付けられると間違えてしまう人は結構多い
問5 以下の問題は小学校レベルだが、間違える人は多い
(1) 「テキストの35ページから52ページまで」という条件下で、1日あたり半ページずつ勉強するなら、何日で勉強が終わるか?
36日
(2) Aさんは病院の待合室で、126番と書かれた受付カードをもらった。現在診療中の人は受付カード98番とのこと。Aさんよりも前に、何人の人が診察を待っているか?ただし受付カード番号には、飛びはないものとする
27人
1.6 数式の書き方
大学では、数どうしの積を$ \timesで書くことは少ない
たとえば実数$ a,bについて、$ a\times bは$ \timesを省略して$ abと書いたり、$ \timesを$ \cdotに取り替えて$ a\cdot bと書くのが普通
例外は、掛け算の後ろに具体的な値が来るとき
たとえば$ 2\times3について$ \timesを省略してしまうと$ 23となってしまうので$ 2\times3, $ 2\cdot3と書く
$ a3と書くのは問題がなさそうだが慣習的にダメ
$ 3aなら問題ないし、$ a\times3、$ a\cdot3でもOK
$ \timesをあまり使わない理由
これらは、数どうしの積とはまったく違う概念
紛らわしいので、数どうしの積には$ \timesはあまり使わない
実数どうしの積には交換法則が成り立つ(式(1.21))ので、$ abを$ baと書いてもOK
小学校の計算の順序はウソで、両者に区別はない
とはいえ、無秩序な順番で書いたら見にくい
原則として、具体的な数値は前に書き、それに続けて文字をABC順に並べる
ただし、複数の文字が平等に出てくる式はABC順にこだわらないほうがよいこともある
たとえば$ ab + bc + ac \qquad (1.32)
このような式はそれぞれ1回は先に、1回は後に書くと「平等な」感じ
$ ab + bc + ca
大学数学では、割り算を$ \divで表すことはほとんどない
かわりに$ /や分数を使う
たとえば実数$ a, bについて、$ a\div bは$ a/bと書いたり$ \frac{a}{b}
$ /の後ろに複数の数の積を不用意に並べてはダメ
たとえば$ 1/ab$ 1/2a$ 1/2\cdot3 $ 1/3\times4
$ 1/(ab)$ 1/(2a)$ 1/(2\cdot3) $ 1/(3\times4)
$ (1/a)b$ (1/2)a$ (1/2)\cdot3 $ (1/3)\times4
いっそ$ b/a$ a/2$ 3/2$ 4/3
このような煩わしさは分数を使えば避けられる
$ \frac{1}{ab}$ \frac{1}{2a}$ \frac{1}{2\cdot3}$ \frac{1}{3\times4}
約分もしやすいので計算が楽に正確にできる
印刷物では文に埋め込むために$ /を使わざるを得ないが、手計算を紙やノートにやるときは$ /にこだわる必要はない
約束
割り算は、できるだけ分数で書く
$ \divは使わない
$ /は印刷物以外ではなるべく使わない
$ /を使う時は、分母がどこまでなのかが明らかになるように書く
式の中で、演算の優先順を表すためには$ (\quad), \{\quad\}, [\quad] のひょうな括弧を使う
入れ子の慣習
$ [\{(a-b)c+d\}e+f]g \qquad (1.33)
同じ形の括弧を多重に使ってしまうと、対応が混乱しやすいのでできるだけ避ける
$ (((a-b)c+d)e+f)g \qquad (1.34)
ただし、括弧の形が足りなかったり、式展開の途中で気づいて付け足したりすると、この慣習が崩れることもある
よくある間違い1 $ 2\times-3とか$ 2\cdot-3のようにマイナス記号を他の演算記号の後に直接並べてしまう
$ -は演算記号ではなく負の数を表す記号(負号)であり、後の数と一体だということを表すための括弧が必要 問6 以下の式の書き方はどこがダメか?
(1) $ 1/2a
(2) $ 3\times-4
(3) $ (2(x+1)-3)/4x
もう一つ覚えて欲しいルール
(印刷物では)変数や定数を表すアルファベットは斜体で表記する $ a,b,c,\cdots,A,B,C,\cdots
$ \mathrm{a,b,c,\cdots,A,B,C,\cdots}
たとえば$ x=5はOKだが、$ \mathrm{x=5}はダメ
1.7 演算の順番と結合法則
3つの数$ a,b,cについて
$ a+b+c \qquad (1.35)
$ abc \qquad (1.36)
これらは…
$ (a+b)+cなのか$ a+(b+c)なのか
$ (ab)cなのか$ a(bc)なのか
「どちらでもよい」が正解
その根拠は式(1.18)と式(1.22)
これらの結合法則のおかげで、複数の数の和はどこから手をつけてもかまわないし、複数の数の積もどこから手を付けてもかまわない
だから括弧を省略できる
これを「当たり前だろ」と思わない
本来、演算は2つの数どうしにしか定義されないので、複数の演算が混ざった式は、本来、どの演算を優先するのかを括弧で明示しなければならない。
たとえば
$ 8\div4\div2\qquad(1.37)
$ (8\div4)\div2とみなすか$ 8\div(4\div2)とみなすかで答えは違う
割り算には結合法則が成立しない
小学校では前者とみなすように教えられているようだが、それは確立された慣習ではないので$ 8\div4\div2のような書き方は避けるべきである
慣習とは不思議なもので
$ 8-4-2\qquad(1.38)
$ 8-(4-2)ではなく、$ (8-4)-2と解釈しよう、という合意がなされており、許容されている
上の式は本来は
$ 8 + (-4) + (-2) \qquad(1.39)
ここで「マイナスのついた数の和は$ +を省略して構わない」ということを慣習的に認めれば、$ 8-4-2という式は許容できる
このような話は、「ベクトル」や「行列」というものの演算で大事になってくる 1.8 累乗の指数を拡張する
実数$ xと自然数$ nについて$ x^nとは$ xを$ n回掛けること(定義)
$ x^nの$ n
この定義から、以下の2つの式(定理)が導かれる($ xは任意の実数、$ mと$ nは任意の自然数とする)
$ x^m \times x^n = x^{m+n} \qquad (1.40)
$ (x^m)^n = x^{mn} \qquad (1.41)
式(1.40)の右辺は$ xを$ m回掛けたものに、さらに$ xを$ n回かけたものをかけるのだから、結局$ xを$ m+n回掛けるのとおなじになる
式(1.41)の左辺は「$ xを$ m回掛けたもの」を$ n回掛けるのだから、結局$ xを$ mn回掛けるのと同じになる
式(1.40), (1.41)をあわせて指数法則という 自然数でないような指数による累乗も許されるように累乗を拡張する
そのためには、指数法則が、自然数以外の$ m,nについても成り立つと要求して、うまくつじつまが合うように累乗を定義し直す
まず式(1.40)を$ m=0についても成り立つと仮定する
$ x^0 \times x^n = x^{0+n} = x^n \qquad (1.42)
ここで$ xは$ 0以外の実数に限定する
式(1.42)の両辺を$ x^nで割れば($ x\neq0だから、$ x^n\neq0)
$ x^0 = 1 \qquad (1.43)
つまり、$ 0以外の実数の0乗は$ 1である
また上の式(1.40)で、$ nは自然数で、$ m=-nとしてみる
すると$ mは負の整数になるが、それでも式(1.40)が成り立つと要求して
$ x^{-n} \times x^n = x^{-n+n} = x^0 = 1 \qquad (1.44)
この最左辺と最右辺を$ x^nで割ると(ただし、$ x\neq0)
$ x^{-n}=\frac{1}{x^n}\qquad(1.45)
すなわち、マイナス乗は逆数の累乗である
次に式(1.41)について、$ nを$ 2以上の自然数とし、$ m=1/nとしてみる
すると$ mは自然数ではないが、このときも式(1.41)が成り立つことを要求して、
$ (x^{1/n})^n=x^{n/n}=x^1=x\qquad(1.46)
したがって、$ x^{1/n}は$ n乗すると$ xになる数
すなわち、$ \frac{1}{n}乗は$ n乗根である
$ x^{1/n} のことを$ \sqrt[n]{x} とも書く
特に$ xの$ 1/2乗、つまり平方根を、$ \sqrt{x}と書く ただし、「$ xの$ n乗根」は複数、存在しうる
無用の混乱を避けるために、「$ x^{1/n} 」や「$ \sqrt[n]{x} 」と表されるものは、複数存在しうる「$ xの$ n乗根」のうちの、$ 0以上の実数のものである、と約束する
ただし、この約束は、$ xが負の値だったり、$ xや$ nが複素数だったりするときには失効する
たとえば、$ 9の平方根は$ \pm3だが、$ 9^{1/2}=\sqrt{9}=3
例1.5 以上のルールは組み合わせできる
$ 4^{-3/2}=(4^{1/2})^{-3}=2^{-3}=\frac{1}{2^3}=\frac{1}{8}
問7 以下の値を求めよ
(1) $ 2^5
(2) $ 2^{-2}
(3) $ 10^{-6}\times 10^4
(4) $ 9^{0.5}
(5) $ 4^0
(6) $ \frac{10^{-3}}{10^{-7}}
問8 以下の数を指数で書き換えよ
(1) $ 1/\sqrt{3}
(2) $ \sqrt[3]{5}
本書では詳述しないが、指数法則は、整数や分数(有理数)の指数のみならず、無理数の指数にも成り立たせることができる
よくある質問5 虚数乗はどうなるのですか?
1.9 ネイピア数
ネイピア数は無理数であり、慣習的に$ eという記号で表す
$ e = 2.71828\cdots \qquad (1.47)
これは定義ではない。ネイピア数の定義は第6章
この値を少なくとも4桁目までは記憶せよ
「似てないやつ」「フナひと鉢ふた鉢」等の語呂合わせがある
問9 式(1.47)を5回書いて、記憶せよ
$ eは数学において、$ \piとおなじくらいに重要な数
なぜ、どのように重要なのかは後の章
$ xを任意の実数として、ネイピア数の$ x乗、すなわち、$ e^xのことを、$ \exp xと書くこともある
約束 $ \exp xとは$ e^xのこと
問10 以下の数を関数電卓やスマホ、パソコンなどで小数第5位まで求めよ
(1) $ \exp 2
7.38906
(2) $ e^{-1.5}
0.22313
よくある質問6 関数電卓の使い方がわかりません
ググれ
1.10 対数
正の実数$ a,bについて、「$ aを何乗すると$ bになるか」の指数を求める操作($ a^x=bとなるような$ xを求める操作)を以下のように表す(ただし$ a\neq0)
$ \log_ab \qquad (1.48)
ここで$ a,bは正としたが、これらが負であっても、同様のことを考えることは、場合によっては可能
例外がたくさん生じるのは面倒なので、対数を考える時は、普通、$ aや$ bに相当する数をプラスに限定する
例1.6
$ \log_2 8 = 3
$ \log_2 1 = 0
$ \log_2 0.5 = -1
問11 以下の値を電卓等を使わずに求めよ
(1) $ \log_2 4
(2) $ \log_3 81
(3) $ \log_{0.1} 0.01
(4) $ \log_{10} 10000
(5) $ \log_{10} 0.01
(6) $ \log_{10} 1
問12 以下の言葉の定義を述べよ
(1) 対数
(2) 常用対数
(3) 自然対数
常用対数や自然対数はよく使うので、底を省略して$ \log xと書かれることが世間ではよくある
しかし、その場合、常用対数なのか自然対数なのか、読者が空気を読んで判断しなければならない
これはトラブルの種であり危険な慣習なので、真似しない
常用対数なら面倒臭がらずに$ \log_{10} xと書くべきだ
一方、自然対数は$ \ln xと書く慣習もある
log naturalの略
便利なので我々はこの表記を採用する
約束
対数の底を省略しない。自然対数は$ \ln xと書いてもよい
よくある質問7 高校数学では自然対数は$ \log xでOKだった。大学や他の授業や教科書でもそう書いているのが多い。$ \log xでもいいのではないか
森林科学では木の体積を木の高さと胸高直径で推定する
それが木材としての商品価値を決める
ある論文で、その推定式が、対数を使って書かれていたが、底が省略されていた
もしそれで誰かが間違った計算をして、まだ十分に大きくなっていいない木を切ってしまえば大変
問13 関数電卓やスマホ、パソコン等を使って以下を小数第5位まで求めよ
(1) $ \log_{10} 2
0.30103
(2) $ \log_{10} 0.006
-2.22185
(3) $ \ln 2
0.69315
(4) $ \ln 10
2.30259
1.11 有効数字
現実的な話題で出てくる数値の多くは、誤差を持つ
例えば、総務省統計局によると、2017年8月1日の日本の総人口は「1億2675万5千人」
誤差ゼロで人口を推計することはほぼ無理だし、意味がない
そこで通常、億から千までの位の数字だけが意味があると考える
誤差を含む数値において、意味のある数字
そして誤差は、有効数字の中で、最も小さなくらいの数に影響する程度だろうと考える
したがって、最も小さい位の数は信用できないわけではないが、ちょっと怪しいぞと疑ってかかる
誤差のある数値を扱うときは、常に有効数字を意識する
まず、数値の有効数字がどの桁までなのかをはっきりさせる
そのときに注意が必要なのは「$ 0」という数字の扱い
「位取りの$ 0」と「有効数字の$ 0」という2つの異なる役割を担う
たとえば「A君今いくら持ってる?」A君「だいたい1200円」
常識的には1100円〜1300円くらい
有効数字は$ 1と$ 2の2桁
下の2桁位の$ 0は位取りのための$ 0
A君は実際は几帳面な人で、10円単位で財布の中身を把握していたとする
1190円〜1210円くらいということになる
その場合、$ 1、$ 2だけでなく、その次の$ 0も有効数字である
ところが、小数点が現れると、有効数字がはっきりすることがある
たとえば$ 100.0という表現を考える
これは数学的には$ 100と同じ
わざわざ小数点の右側に$ 0がある場合、この$ 0は位取りの$ 0ではなく、有効数字の一部であると解釈するしかない
それよりも大きな数は全部有効数字のはずなので、$ 100.0は$ 1,0,0,0という4つの数が有効数字
単に$ 100と表していたら自信を持って有効数字だと判断できるのは最初の$ 1だけ
たとえば$ 0.0012
$ 1,2は当然有効数字
しかし、それより上位にある3つの$ 0は、小数の位取りを表す$ 0と考えるのが適当
したがって$ 0.0012の有効数字は$ 1,2
問14 以下の数のそれぞれについて、有効数字を指摘せよ
(1) $ 5.3
$ 5, 3の2桁
(2) $ 1230.5
$ 1,2,3,0,5の5桁
(3) $ 5300
$ 5,3は確実に有効数字だが、2つの$ 0は有効数字かどうかわからない
(4) $ 0.0230
$ 2,3,0の3桁
このように、有効数字は、表現法によっては曖昧になってしまう
有効数字をはっきりさせたいときは、数値を敢えて小数を使って書く
たとえば1200円を次のように書く
$ 1.2 \times 10^3円\qquad(1.49)
$ 1.20\times10^3円\qquad(1.50)
式(1.49)の場合は有効数字は$ 1 と$ 2 だけだが、式(1.50)の場合は有効数字は$ 1,2,0 となる
1.12 有効数字の計算
有効数字を計算(四則演算)の中でどのように扱うか
$ 4.56と$ 1.2という数値の和を考える
「怪しい数」を以下のように追跡する
https://gyazo.com/19cacb0ef9e36aca8df4c95c4d02b1f3
怪しい数が足されて得られた数は、怪しさが「伝染」しているはずだから、その数も囲う
どちらの形で囲うかは、その怪しさが伝染してきたもとの数を囲う形で決める
ただし、怪しい数からの繰り上がりによって受ける影響は無視する
有効数字を考えなければ、結果は$ 5.76
$ 5は怪しくないが、その右の$ 7は怪しい
この時点でさらに右の$ 6はあまり意味がない
$ 0.1の位の$ 7が$ 6とか$ 8かもしれないなら、それよりも詳細な情報にこだわっても仕方がない
よって、この答の有効数字は、最初の$ 5と次の$ 7の2桁と考えるのが妥当だろう
そこで3桁目の$ 6を切り捨てるか切り上げよう
このように、無意味な桁を切り捨てたり切り上げたりすることを「丸める」という
多くの場合は、四捨五入によって丸めるので、ここでは6を切り上げて最終的な答を$ 5.8とする
常に四捨五入が正しいというわけではない
このように足し算では最終的な答の有効数字は次のような手順で決める
足す前の有効数字の最小の位をチェック
上の例では「$ 4.56」の右端は$ 0.01の位であり、「$ 1.2」の右端は$ 0.1の位
次にそれらの中で最も大きな位に注目する
上の例では、$ 0.1と$ 0.01の位の比較となり、大きいのは$ 0.1の位
その位を最終的な答の有効数字の最小の位とする
上の例では$ 5.76のうち、有効数字は$ 0.1の位までになる
それより1つ小さな位を丸める
上の例では$ 0.01の位の数、すなわち$ 6を四捨五入すると切り上がって、$ 5.8となる
ここでは詳しく述べないが、引き算も同様
問15 以下の計算を行え。ただし、これらはいずれも誤差を含む数値とし、有効数字に気をつけて、無意味な数を書かないように気をつけよ。電卓を使ってよい。丸めは四捨五入で行なえ
(1) $ 5.3+6.6
11.9
(2) $ 0.023+123.5
123.5
(3) $ 100.2-13
87
$ 4.56と$ 1.2の積を考える
https://gyazo.com/60cb820dda99634cea7c55f5d2e7eb4e
有効数字を考えなければ、結果は$ 5.472になる
最初の$ 5は怪しくないが、その右の$ 4は怪しい
この時点で、さらに右の$ 7や$ 2はあまり意味がない
なぜなら、$ 0.1の位の$ 4が、$ 3とか$ 5かもしれないなら、それよりも詳細な桁の小さい情報にこだわっても仕方がない
というわけで、この答の有効数字は、最初の$ 5と次の$ 4の2桁と考えるのが妥当だろう
そこで3桁目の$ 7を切り捨てるか切り上げる
ここでは四捨五入によって$ 7を切り上げて最終的な答を$ 5.5としておこう
このように掛け算では、最終的な答の有効数字を次のような手順で決める
まず、掛ける前の数の有効数字の桁数をチェックする
上の例では$ 4.56の3桁と$ 1.2の2桁
次に、それらの中で、最も小さな有効数字の桁数に注目する
上の例では3桁と2桁の比較となり、最小は2桁
その桁数を最終的な答の有効数字の桁数とする
上の例では、$ 5.472のうち$ 5と$ 4の2桁が有効数字
最小の有効数字よりも1桁小さな数値を丸め、最終的な数を確定する
ここでは詳しく述べないが、割り算も同様
問16 以下の計算を行え。ただし、これらはいずれも誤差を含む数値とし、有効数字に気をつけて、無意味な数を書かないように気をつけよ。電卓を使ってよい。丸めは四捨五入で行なえ
(1) $ 5.3\times2.6
14
(2) $ 0.023\times123.5
2.8
(3) $ 100.2/13
7.7
例1.7 長さ$ 16cmの棒を$ 3等分したとき、1本の長さは?
$ 16/3=5.333\cdotscm
このとき16cmの有効数字は2桁だから、結果の有効数字も2桁でよかろう
3桁目を四捨五入し、$ 5.3cmが妥当な答だろう
しかし、3等分の3は有効数字1桁では?
棒を3本に分けよ、と言われてうっかり$ 3.1本に分けるなんてことはありえない
つまり、この3の誤差は、半端な小数ではなく、整数のはず
よほどのうっかり屋でも3本を2本や4本に間違えることはなかろう
したがって、この場合の誤差は$ 0
つまり、「3本」は実は$ 3.0000\cdots本、つまり有効数字が無限にあると考えるのが妥当
ここで「小数にせずに$ \frac{16}{3}cmというふうに分数のままにしておけばいい」と思う人もいるだろう
数学的にはそれで正解
実務的な現場では、数値は分数ではなく、小数で表しておきたいということがよくある
(注意) 有効数字というのは、実は、あまり厳密な考え方ではない
例1.8
$ 3.47\times2.88を考える。
有効数字を考えなければ、$ 3.47\times2.88=9.9936
$ 3.47も$ 2.88も有効数字3桁だから、結果の有効数字は3桁のはず
そこで、4桁目以降を丸めて$ 3.47\times2.88=9.99
ところが、この計算と微妙に違う$ 3.47\times2.89を考える
$ 3.47\times2.89=10.0283
4桁目以降を丸めて$ 3.47\times2.89=10.0
結果の有効数字は、前者では$ 0.01の桁まであったのに、後者では$ 0.1の桁までしかない
後者の誤差は前者の誤差の10倍
こういうのが有効数字の弱点である
「積の有効数字の扱い方」を厳密に適用すると、繰り上がりが発生する瞬間に、いきなり有効数字が1桁引き上げられてしまい、誤差が突然に10倍になるという、本来は起きるはずのないことが起きてしまう
本来、誤差のある数は、その誤差も明示的に表記するのが科学的に正しい態度
$ 3.47の誤差が$ 0.01程度であることがわかっていれば$ 3.47\pm0.01
そして計算の中でそのように表された誤差もきちんと追跡すれば、変なことは起きない
でもそれは結構面倒くさいので、誤差の大きさの追跡はサボって「有効数字」で勘弁してもらう
そういう状況で有効数字の桁数を考えすぎるのは不毛
そんなことに悩むくらいなら、1桁分余分にとっておくか、あるいは真剣に誤差の大きさを追跡するべき
問17 長さ$ 6.4cmの棒が2本ある。これを繋ぎあわせて1本の棒にしたら、長さは何cmか?
(1) $ 6.4 + 6.4という計算で、有効数字に気をつけて、答えを求めよ
(2) $ 6.4 \times 2という計算で、有効数字に気をつけて、答えを求めよ
(3) これらの答の有効数字の桁数が違うことを、どのように解釈すればよいか
ところで、たとえば$ 4.2という値は、実際のところ、どのくらいの範囲の値を意味するのだろうか
よくあるのが「$ 4.15以上$ 4.25未満」という説明(末尾を四捨五入して$ 4.2になる範囲)
実はそうとも限らず、$ 4.1以上$ 4.3未満、$ 4.0以上$ 4.4未満であっても、$ 4.2という有効数字で表現してよい
問18 以下の数値を$ \pm nを使わずに有効数字で表すとどうなるか
(1) $ 13.2\pm0.1
13.2
(2) $ 13.2\pm0.2
13.2
(3) $ 13.2\pm0.6
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